バスの運転手・中塚幸彦は、乗客の大友紀子に少年の頃の記憶にある牧野直美そっくりの面影を認め、思わず声をかけた。小学生の頃の幸彦が、メンソレータムの匂いと、胸の花びらのような小さなヤケドの痕と共に蘇る官能的な夢の中の女性、それが直美だった。一方紀子は、友人の佳代の夫・遠藤に脅迫された形ではあるがセックスし、それを佳代に知られ取り乱されても、愛情のないセックスだからと動揺の素振りさえない。そんな紀子もまた、幸彦という男の子にヤケドの痕にメンソレータムを塗ってもらう夢を見ると中塚に告白する。2人は夢の中で出会っていたのか。紀子は中塚をホテルに誘い、煙草の火で胸にヤケドを作るが、中塚はその場を逃げ出してしまう。妻や娘のいる今の家庭が崩壊するのを恐れたのではなく、夢の中で紀子の体を縛りつけ、苦悶の表情を楽しんでいる、それが現実になってしまう誘惑を恐れたかのように。中塚は渋谷のチーマーたちと戯れる娘・美樹に無視され、逆にリンチに遭った。紀子は遠藤と別れてきた佳代に好きだと泣きつかれた。そしてある日、中塚の運転するバスにまた紀子が乗って来、2人きりになった。中塚はゆっくりと運転席から立ち上がり、紀子に近づいていった。少年時代の幸彦が裸の直美の腹部にナイフを振り下ろしているイメージが、中塚の頭をかすめた時、紀子の腹からは真っ赤な血が流れ出していた。中塚は呆然とそれを見下ろしていた。やがてバスが、ゆっくりと走り始める。
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